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【ケーススタディ】3DプリンタによるABS樹脂製治具のケーススタディ

はじめに

近年、3Dプリンタ技術は目覚ましい発展を遂げ、製造業においてもその活用が拡大しています 1。特に、治具製作においては、3Dプリンタならではの利点である設計自由度の高さ、製作期間の短縮、コスト削減などが注目されています。本サイトでも、3Dプリンタによる治具製作ガイドでその優位性を説明しました。

【コスト激減】製造業を変える3Dプリンタ治具製作ガイド

 

本記事では、ABS樹脂に特化して3Dプリンタ治具のケーススタディを行い、その設計、製作プロセス、使用結果、課題などを分析します。さらに、ABS樹脂製治具の利点と欠点、他の材料との比較、今後の展望について考察することで、ABS樹脂製治具の可能性を探ります。

 

ABS樹脂の特徴と3Dプリンタでの造形における注意点

ABS樹脂の特徴

ABS樹脂は、アクリロニトリル (A)、ブタジエン (B)、スチレン (S) の3つのモノマーから構成される熱可塑性樹脂です 2。それぞれのモノマーの特性を併せ持つため、耐衝撃性、剛性、加工性に優れているという特徴があります。具体的には、アクリロニトリルは耐熱性と強度、ブタジエンは耐衝撃性、スチレンは剛性と加工性を付与しています 3

ABS樹脂は、接着、印刷、塗装、メッキ、切削加工、溶接など、様々な加工方法に対応しています 3。そのため、工業製品として幅広く使用されています 4。また、ABS樹脂と同等の基本物性を持つAES樹脂など、代替材料も存在します 5

ABS樹脂のイメージ図

 

3Dプリンタでの造形における注意点

ABS樹脂を3Dプリンタで造形する際には、いくつかの注意点があります。まず、熱収縮による反りが発生しやすいという点です 6。造形物のサイズが大きくなるほど、反りの影響を受けやすくなるため、設計段階で考慮する必要があります。

また、フィラメントの交換ミスやノズル詰まりなどのトラブルが起こる可能性もあります 7。こうしたトラブルを避けるためには、適切な造形条件を設定し、3Dプリンタのメンテナンスを適切に行うことが重要です。さらに、ABS樹脂は光劣化による黄変が起こる可能性があります 8。長時間紫外線にさらされると、ABS樹脂が黄色く変色し、脆くなることがあります。明るい環境で使用する治具を設計する際には、この点を考慮する必要があります。

 

3Dプリンタで製作されたABS樹脂製治具のケーススタディ

ケーススタディ1:位置決め治具 9

このケーススタディでは、部品の位置決めを正確に行うための治具を3Dプリンタで製作しています。3Dプリンタによる造形により、位置決め精度が向上し、作業効率が改善されたとのことです。しかし、具体的な設計や製作プロセス、使用結果、課題などの詳細な情報は見つかりませんでした。

ケーススタディ2:配膳トレイ、組立治具 10

このケーススタディでは、初心者でも部品の配膳位置や個数が分かる配膳トレイと、組立順を間違えない組立治具を3Dプリンタで製作しています。これらの治具の導入により、組立ミスが減少し、作業の簡素化と生産効率の向上が実現しました。ただし、治具の形状が複雑な場合は、ハイエンドの3Dプリンターが必要になるという課題も明らかになりました。

ケーススタディ3:ドリル位置決め治具 11

日産自動車では、組立ラインに3Dプリンタ製の治具を導入しています。このケーススタディでは、ドリル位置決め用の治具を3Dプリンタで製作しています。材料にはABS樹脂が使用され、1つの部品を造形するのに平均15時間かかり、費用は21.50ユーロ(=約3,500円)でした。この治具は、ドリル位置の指標として機能し、組み立てられる各車両の一貫性を維持し、作業者の使いやすさを提供することを目的としています。治具にはブッシングが組み込まれているため、部品の寿命が延び、プラスチックの損傷を防ぐことができます。

ケーススタディ4:Stratasys社による事例 12

Stratasys社は、汎用プラスチックからスーパーエンジニアリングプラスチックまで、幅広い物性の材料に対応する3Dプリンタを製造しています。ABS-M30などの材料を用いて、試作品から治工具、最終製品まで、強度のあるモデルを造形することができます。Stratasys社の3Dプリンタは、治具製作において高い強度と耐久性を求める場合に適しています。

 

ABS樹脂製治具の利点と欠点

利点

  • 設計自由度が高い:複雑な形状の治具も容易に製作可能です。
  • 製作期間が短い:従来の加工方法に比べて、短期間で製作可能です。
  • コスト削減:金型製作が不要なため、初期費用を抑えることが可能です。
  • 軽量化:金属製治具に比べて軽量なため、作業者の負担を軽減できます。
  • カスタマイズ性:個々の作業に合わせた治具を製作可能です。
  • 大幅な時間短縮: Volkswagen AutoeuropaStratasys社の調査によると、3Dプリンタで治具を製作することで、従来の方法と比べてリードタイムを最大90%削減できるという報告があります 13
  • コスト優位性: 3Dプリンタで製作した治具は、CNC加工で製作した治具に比べて、大幅にコストを削減できます 14

欠点

  • 強度が低い:金属製治具に比べて強度が低いため、高い負荷のかかる用途には不向きです。
  • 耐熱性が低い:高温環境下での使用には不向きです。
  • 反り:造形時に反りが発生しやすい。

 

他の材料と比較したABS樹脂製治具の優位性

3Dプリンタで治具を製作する際の材料としては、ABS樹脂以外にも、PLA樹脂、ナイロン、ポリカーボネートなど、様々な材料が使用されています。

ABS樹脂は、PLA樹脂に比べて強度や耐熱性が高く、ナイロンやポリカーボネートに比べて安価であるという点で優位性があります。また、PLA樹脂とは異なり、光学異性体(L体とD体)を持たないという特徴もあります 15

 

ABS樹脂製治具の今後の展望

ABS樹脂は、3Dプリンタ用材料として広く普及しており、今後も治具製作において重要な役割を果たすと考えられます。

特に、以下のような分野での活用が期待されます。

  • 多品種少量生産:多様な形状の治具を必要な時に必要なだけ製作することが可能です。
  • カスタマイズ治具:個々の作業に合わせた治具を製作することが可能です。
  • IoTとの連携:センサーなどを組み込んだ治具の製作も可能です。

近年、製造現場では、コスト削減、生産の迅速化、カスタマイズされたツールの作成などのニーズが高まっており、3Dプリンティングによる治具製作の導入が加速しています 1。ABS樹脂は、これらのニーズに応えることができる材料として、ますます重要性を増していくと考えられます。

 

結論

ABS樹脂は、3Dプリンタ治具の材料として、多くの利点を持つ材料です。設計自由度の高さ、製作期間の短縮、コスト削減といった利点を活かすことで、製造現場の効率化に貢献することができます。

ケーススタディから、ABS樹脂製治具は、位置決め精度向上、組立ミス低減、作業の簡素化、生産効率向上などに効果があることが示されています。他の材料と比較しても、ABS樹脂は強度、耐熱性、価格のバランスに優れており、3Dプリンタ治具の材料として多くの利点があります。

今後、3Dプリンタ技術の更なる発展、材料開発、ソフトウェアの進化などが進めば、ABS樹脂製治具は、より幅広い分野で活用されることが期待されます。特に、多品種少量生産、カスタマイズ治具、IoTとの連携、持続可能な製造など、製造業の進化に貢献する可能性を秘めています。

 

弊社でも3Dプリンタによる治具設計・製作を行っております。宜しければ下記からお問い合わせください。

 

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引用文献

  1. Five Reasons to 3D Print Tooling, Jigs and Fixtures – Jabil.com, https://www.jabil.com/blog/3d-printing-jigs-fixtures-tooling.html
  2. ABS樹脂とは|めっき加工なら真工社,  https://www.shinkosya.co.jp/s/abs
  3. 耐衝撃性を改良した素材「ABS樹脂」 – 湯本電機株式会社,  https://www.yumoto.jp/material-onepoint/plastic-abs/
  4. ABS樹脂(じゅし)は丈夫(じょうぶ)なプラスチック!どんな物に使われる?, https://www.pwmi.jp/library/library-1648/
  5. よくあるご質問 | ABS樹脂とAES樹脂の特徴は何ですか? – テクノUMG, https://www.t-umg.com/support/faq/3c0e8869f761c59019660d7ee8161a01be9436c2/
  6. 3DプリンターのABSフィラメント完全ガイド, https://i-maker.jp/blog/abs-filament-11479.html
  7. 3Dプリント講座第四回:個人向け3Dプリンターについて③ – Shade3D, https://shade3d.jp/training/1/4.html
  8. 3Dプリンターの材料としてのABS樹脂の特徴と注意点 – リコー, https://blogs.ricoh.co.jp/3dp/2016/03/3d-7.html
  9. 位置決め治具 – 製作事例|DDD FACTORY®, https://www.ddd-factory.jp/example/6676/
  10. 3Dプリンター活用事例~冶具製作で生産プロセスを抜本改善 – リコー, https://www.ricoh.co.jp/3dp/case/r_industry/
  11. Nissan implements 3D printed tools, jigs and devices in its assembly lines – Crea3D®, https://www.crea3d.com/en/blog/nissan-implements-3d-printed-tools-jigs-and-devices-in-its-assembly-lines-b51
  12. 3Dプリンター導入事例(株式会社トレッドワークス様) – 3D …, https://www.3d-printer.jp/case/stratasys/casestudies-tredworks.html
  13. Jigs and Fixtures: 6 Ways to Improve Production Efficiency with 3D Printing – AMFG, https://amfg.ai/2021/05/13/jigs-and-fixtures-6-ways-to-improve-production-efficiency-with-3d-printing/
  14. How to Make Your Own Custom Jigs and Fixtures – Formlabs, https://formlabs.com/blog/jigs-and-fixtures/
  15. ABSとはどのような樹脂なのか 3Dプリンタの観点から – Nature3D, https://nature3d.net/explanation/aboutabs.html

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