【3Dプリンタ選定:入門編】3Dプリンタで製作された治具(FDM・SLS・SLAの使い分け)
3Dプリンタで製作された治具のケーススタディ(FDM・SLS・SLAの使い分け)
3Dプリンタ技術の進歩により、製造業では従来の製造方法に比べてコスト削減、製作期間の短縮、設計自由度の向上など、多くのメリットをもたらす3Dプリンタを用いた治具製作が注目されています。近年では、リコー社が3Dプリンタを治具製作に活用し、モデリングから直接造形プロセスに移行することで、治具の調達期間を大幅に短縮した事例も報告されています。1
その情勢を踏まえて、弊社では入門編として下記のガイダンスを掲載しました。
本稿ではより専門的な内容として、FDM方式、SLA方式、SLS方式の3Dプリンタを用いて製作された治具のケーススタディを紹介します。
FDM方式3Dプリンタで製作された治具
熱溶解積層法(FDM)方式は、熱で溶かしたフィラメントを積層して造形する、最も普及している3Dプリンタ方式です。1 材料としてPLA、ABS、PETGなど、様々な種類の熱可塑性樹脂が使用できます。1
FDA方式の紹介(弊社動画より)
FDM方式3Dプリンタで治具を製作するメリットとして、以下のような点が挙げられます。
- 低コスト: 他の方式の3Dプリンタと比べて、装置や材料の価格が比較的安価です。
- 短納期: 設計データさえあれば、すぐに治具を製作することができます。1
- 設計自由度: 複雑な形状の治具も容易に製作することができます。
FDM方式は多くの利点を持つ一方で、いくつかの制限事項も存在します。
- 精度: 他の方式に比べて精度が劣る場合があります。
- 強度: 積層方向によって強度が異なり、衝撃に弱い場合があります。
- 表面仕上げ: 積層痕が目立つため、滑らかな表面仕上げが難しい場合があります。
弊社では、FDMの3DプリンタでABS樹脂によって治具製作を行うことがトータルで見てメリットを出せるケースが多いので、下記のレポートを掲載しています。
その一方で、SLA方式やSLS方式の方がメリットを出せるケースもありますので下記に紹介いたします。
SLA方式3Dプリンタで製作された治具
光造形法(SLA)方式は、紫外線レーザーで液状樹脂を硬化させて造形する3Dプリンタ方式です。FDM方式に比べて高精度な造形が可能です。2
SLA方式では、様々な種類の光硬化性樹脂を使用することができます。3
これにより、用途に合わせた材料選択が可能となり、機能性や耐久性に優れた治具を製作することができます。
SLA方式3Dプリンタで製作された治具のケーススタディとして、従来、金属CNC加工で外注していた溶接ジグを、SLA方式3Dプリンタで内製化することで、コストを90%削減することに成功した事例があります。4
SLA方式の紹介(Formlabs社動画より)
SLA方式のメリットは、以下の点が挙げられます。
- 高精度: FDM方式に比べて高精度な造形が可能です。2
- 滑らかな表面: 積層痕が目立たず、滑らかな表面仕上げが可能です。
SLA方式のデメリットは、以下の点が挙げられます。
- 高コスト: 装置や材料の価格がFDM方式に比べて高価です。
- 材料の制約: 使用できる材料が光硬化性樹脂に限られます。
- 後処理: 造形後にサポート材の除去やUV硬化などの後処理が必要です。
SLA方式は、コンポジットツーリングにも活用できます。2
コンポジットツーリングとは、3Dプリンタで製作した型を用いて、炭素繊維やガラス繊維などの複合材料を成形する技術です。これにより、従来の金属製治具に比べて軽量かつ高強度な治具を製作することができます。また、人間工学に基づいた設計を容易に実現できるため、作業者の負担軽減にも貢献します。
さらに、5 の表に示されているように、3Dプリンタによるラピッドツーリングは、従来の機械加工によるラピッドツーリングと比較して、製作期間の短縮、コスト削減、少量生産への対応力などの点で優れています。3Dプリンタを使用することで、金型製作を内製化し、1日から3日間で試作品を製作することが可能になります。
SLS方式3Dプリンタで製作された治具
粉末焼結積層造形法 (SLS) 方式は、レーザーで粉末材料を焼結させて造形する3Dプリンタ方式です。ナイロンやポリアミドなどの粉末材料をはじめ、自転車のペダルなどに使用されるような、機能的なプロトタイプや複雑で頑丈さが求められる最終品に対応できる粉末材料も使用することができます。6
SLS方式では、高い強度と耐久性を持つ造形物を製作できます。
SLS方式3Dプリンタで治具を製作することで、従来の金属CNC加工に比べてコストを削減し、製作時間を短縮した事例があります。7
以下に、具体的な事例をまとめた表を示します。
Method | Equipment | Cost | Time |
---|---|---|---|
従来方法 | 金属CNC加工、外注 | 150ドル | 3~4週間 |
社内3Dプリント | Fuseシリーズ、ナイロン12パウダー | 7ドル | 1日 |
SLS方式の紹介(Formlabs社動画より)
SLS方式のメリットは、以下の点が挙げられます。
- 高強度: FDM方式やSLA方式に比べて、高い強度と耐久性を持つ造形物を製作できます。
- サポート材不要: 粉末材料がサポート材の役割を果たすため、サポート材の設計や除去が不要です。7 これにより、設計プロセスが簡素化され、後処理にかかる時間も削減できます。
SLS方式のデメリットは、以下の点が挙げられます。
- 高コスト: 装置や材料の価格が、FDM方式やSLA方式に比べて高価です。
- 表面粗さ: 造形物の表面が粗いため、後処理が必要な場合があります。
方式 | 造形速度 | 精度 | 表面品質 | 作業効率 | 複雑形状の造形 | 使いやすさ | 利点 | 欠点 | 代表的な用途 |
FDM(熱溶解積層)方式 | ★★★☆☆ | ★★★★☆ | ★★☆☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★★★ | 低コスト:機器と材料 シンプルな小型部品を高速かつ簡単に造形 |
精度が低い ディテール表現が困難 |
コンセプトモデル ラピッドプロトタイピング 機能確認用試作 治具 |
SLA光造形方式 | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★★★☆ | 価格に対して品質が高い 高精度 滑らかな表面仕上がり 造形スピードが速い幅広い機能的用途 |
材料によっては長時間の紫外線照射への耐性が低い
溶液の管理コストが高い |
コンセプトモデル ラピッドプロトタイピング 機能確認用試作 ラピッドツーリング 治具 少量生産、量産前のテスト生産、カスタム生産 歯科モデル・器具 医療モデル・器具ジュエリーの試作・鋳造模型・小道具 |
SLS(粉末焼結積層造形)方式 | ★★★★☆ | ★★★★★ | ★★★☆☆ | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★★☆☆ | 高強度の機能部品 自由度の高いデザイン サポート材不要 |
やや粗めの表面品質 使用可能な材料が限定的材料費が高い |
ラピッドプロトタイピング 機能確認用試作 少量生産、量産前のテスト生産、カスタム生産 耐久性の高い治具 医療器具、人工装具、矯正器具 |
3Dプリンタ治具の将来展望
3Dプリンタ技術は、材料の多様化、造形速度の向上、精度の向上など、今後もますます進化していくことが予想されます。AIを活用した治具設計の自動化など、ソフトウェア面での進化も期待されます。これらの進化により、3Dプリンタで製作できる治具の種類や用途はさらに広がっていくでしょう。
特に、以下のような分野での活用が期待されます。
- マスカスタマイゼーション: 顧客一人ひとりのニーズに合わせた治具を、オンデマンドで製作することが可能になります。
- スマートファクトリー: IoTやAIと連携することで、生産ラインの状況に合わせて治具を自動的に設計・製作することが可能になります。
- 医療分野: 患者のCTデータなどを基に、オーダーメイドの医療用治具を製作することが可能になります。
結論
3Dプリンタは、治具製作に革新をもたらす技術です。従来の製造方法では難しかった複雑な形状の治具や、高強度・高精度な治具を、短期間で低コストに製作することが可能になります。
FDM方式は、低コストで手軽に治具を製作できるため、試作品や治具の製作に適しています。SLA方式は、高精度な造形が可能なため、精密な寸法精度が求められる治具や、滑らかな表面仕上げが必要な治具に適しています。SLS方式は、高強度な造形物が製作できるため、耐久性が必要な治具に適しています。
このように、各方式の3Dプリンタにはそれぞれメリット・デメリットがあるため、用途や目的に合わせて最適な方式を選択することが重要です。3Dプリンタ技術の進化と普及により、今後ますます多くの分野で3Dプリンタ治具が活用されていくことが期待されます。
弊社でも治具製作のご依頼を受けております。貴社にとってメリットがある製作ですので、よろしければ下記からお問い合わせください。
引用文献
- 3Dプリンター活用事例~冶具製作で生産プロセスを抜本改善 – リコー、 https://www.ricoh.co.jp/3dp/print_service/case/r_industry/
- ステレオリソグラフィ(SLA)技術 – ストラタシス、 https://www.stratasys.co.jp/guide-to-3d-printing/technologies-and-materials/stereolithography-technology/
- 3Dプリント活用法:治工具の製作 – Formlabs、 https://formlabs.com/jp/applications/manufacturing-aids/
- 3Dプリンター活用で90%のコスト削減!溶接ジグ製作の成功事例 – PR TIMES、 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000159.000140772.html
- 金型や治具を3Dプリントで高速製作:ラピッドツーリング総合ガイド | Formlabs, 、 https://formlabs.com/jp/blog/rapid-tooling/
- SLS方式3Dプリンター「Fuse 1+」の使い方と、4種の素材をご紹介! – YOKOITO Formlabs Shop、 https://www.form2.shop/post/blog-2022012001
- SLS 3Dプリンターで80%のコスト削減に成功!生産効率向上の事例を紹介 – PR TIMES、 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000158.000140772.html